大饅頭選手権の中で

長くなる事を残す場として

嗚呼、ITサービスマネージャ試験

高度試験の最後の午後II試験で、市内の専門学校の教室で自分がひり出した硬いうんちのような論文が心にこびり付いてた。

選択式の試験である午前Iと午前IIは自信はなかったものの自己採点の結果合格ラインの6割を大きく上回る点数を取っていた。

だけど全ての試験を終えて専門学校を後にする僕には合格の自信は皆無だった。午後IIの論文は指定の文字数をクリアしただけのひどい出来であった。例えるならダンゴムシのようなワラジムシ、ライスカレーを期待してのオリエンタルスープ、論文と見せかけてのトイレットペーパーなのである。

 


(オリエンタルスープはうすいカレー味がする根菜のスープなのだが、地元の小学校給食限定のものかもしれない。妻はその存在を知らなかった。)

 


試験のことはもう忘れてしまおう。そう思ってその晩は(妻の優しさもあり)自分の好きなメニューを好きなだけ食べたし、翌日もわざわざ隣県まで行ってハンバーグを食べてきた。相変わらずげんこつハンバーグは最高だった。

 


それでも頭の中は、高速のゆるいカーブを曲がりながら、サービスエリアでスマホをいじるたび、岩盤浴で熱い岩の上で汗を流しつつ、午後IIで書いたひどいうんちのことで頭がいっぱいなのであった。

そして今回の受験者の多くが論文で失敗していないかなーとか、奇跡的に採点者の人がうんち愛好家だったりしないだろうかという醜い願いが心をグルグルして女々しくて辛かった。

 


思えば僕がITゼネコンを形成するあるソフト会社に入ったばかりの頃、何をするにも自信がなかった。大学の学科は機械科だったし、たいしてパソコンも詳しくなかった。魔法のiらんどで作ったホームページを友達に見せてドヤドヤしていたチャーミングな青年だった。要するにこの道を志すのが遅かった。そんな自分がどうにかして自信を持つために受けた試験が基本情報処理技術者だった。青年は合格した時、これでようやくこの道を選んで良いと、お墨付きをもらったように思えて迷いが晴れたそうな。

 


あれから干支を一回りしたが手元にあるのは基本情報だけだ。

 


技術者としては中堅に差し掛かる。

転勤のない東京のソフト会社に入ったはずが、いつの間にかSIerになり、名古屋で暮らし、あるお客さんのところのシステムの保守ばかりを10年近くやってきた。前の会社にいた頃は開発の現場を転々とし、忙しくも自分のスキルが磨かれていくそんな感覚があったが、何年も同じシステムを見てくると繰り返しの日々に、ありがたいぬるま湯に、何も感じなくなった。

 


そして今年、その保守の仕事がようやく一段落し、次の仕事までの助走期間を過ごしていた(社内ニートとも言う)。テストを受けたのはそんな時だった。

これまでの自分の仕事はきっと少しはお客さんの役には立ったし、自分の会社にも貢献はしたのだと思う。そう信じたい。

だけど、自分自身にとって実りのある正しい時間だったのかと考えると自信が無かった。

 


ITサービスマネージャ試験を受験したのは自分のこの10年を何らかの形で認めて貰って、自分自身が納得して次の一歩を踏み出したかったからなのだと思う。

ヘルプで入ったジョブの客先で過ごす昼休み、電気が消され薄暗くなった執務エリアでIPAのWebページを開き結果を確認した。

信じられない二文字。あれほど渇望していた高度試験の合格。本当に嬉しくてこれまでにない達成感があった。愛好家の採点者さんには感謝してもしきれない。

 


その2日前に、僕は来年から九州の仕事になることを伝えられた。

 

 

どこに行ってもどんな仕事でも続ければきっと何かになる。

新しい街でも自分の仕事をしておいしいものを食べて奥さんと笑って過ごせればきっと自分の生活に納得できる。そう思えた。

 

 

 

はい。

前置きが長くなりましたが、せっかくなので体験記も書いておきたいと思います。

 


午前Ⅰ…78点。

午前Ⅱ…84点。

対策は以下のサイトに大変お世話になった。

https://itsiken.com/index.html

8年分の過去問を2回ずつ解いた。午前Ⅰは春秋問わずやり、かつ応用情報の午前と同じものが出るためそっちも5年分やった。内容を全て理解することはやめ、とにかく正しい選択肢を選べられるようになる事を意識して続けた。最終的にⅠもⅡも8割以上取れるようになった。同じ問題を何回もやればそりゃそうなる。そして、本番も過去問から多く出題されるので、それでいいと割り切った。

 


午後Ⅰ…78点。

午後は参考書を買って練習した。

参考書は午後対策だけで十分だと思う。僕は2年前の中古品の「専門知識+午後問題の重点対策」というものを使ったけど、とても参考になった。

午後は午前よりも狭い範囲を掘り下げる内容となる。午前対策では捨て置いたよくわからない言葉や内容はこの専門分野ではあってはならないと決意して理解するまで参考書を読みこんだ。過去問や問題集は確認のために少しやった程度。

 

午後Ⅱ…A判定。

論文が一番の難関。評価ポイントを押さえる論文の書き方を頭に叩き込んだ。

論文の題目の傾向はいくつかある。出てくるパターンごとに、どの仕事の経験を書くかをシミュレーションした。いや、厳密には経験していないパターンばかりだ。過去の仕事での出来事を記憶の中から引っ張り出して捻じ曲げ、脚色し、虚構を織り交ぜ論文に適合させる、その方針をパターンごとに決めておいた。

論文を書く練習は3回くらいしかしなかったが、当日はもっと練習しておけば良かったと思った。手が疲れて指が動かなくなる。途中間違って四百字ほど書き直したのが痛かった。必死で既定の文字数を書き切った。

 

 

 

傷つき悩める保守メンバ、サービスマネージャに幸多からんことを。

自己愛を取り戻せ

恥ずかしい自分語りになる。

 

かつての僕は時間があればtwitterなりブログなりに何かしら自分の思った事や感じたことを書いていた。いくつかの趣味があり、友達は少なかったがそれなりに楽しくやっていた。

 

今の僕はと言えば時間さえあればソシャゲ。趣味らしい趣味もない。スマホを触れば、まとめを見たり漫画を読んだり動画を観たり、どこからか流れてくる情報に身を委ねているばかり。何かTweetしたいなと思っても何もない。文字に起こしたい程思う事も面白い事も浮かんでこない。

 

どうして何かを書けなくなったのか。どうしてこうも生活が変わってしまったのか。

このままの生活で良いのか?こんな僕で良いのか?なんて以前は思ったりもしたけど最終的には「歳をとるにつれて目新しい事はなくなって慣れてゆくものだし」とぼんやり理由をつけて真面目に考える事もなくなっていた。

 

1月3日の夜。楽しかった家族旅行の帰り。空の上で日付変更線を越えながら10時間弱の暇つぶしをしていた。

 

機内サービスで視聴できる新作の映画も観終わり、iPhoneで何か時間を潰そうと、以前に取り込んだあるタレントのトークライブを聴いた。

20年前から聴いていた40年前の伊奈かっぺいのトークライブの音源。僕のかっぺいさんへの愛は語り始めればきりがなく、しかも本筋とはあまり関係ないため割愛するが、水曜どうでしょうを好きな大人たちがいるように、伊奈かっぺい津軽弁トークを愛する男もいるのだ。

彼が若い頃に暇で暇で仕方なく書いていたという日記は日々の端々にあった面白い事を少し卑屈にユーモアを交えて書いてあり、そこはかとなく自己愛が漂う。僕はそんなところに親しみを感じ、中学生の頃から熱心にCDを聴いていた。(でもちゃんとイケてるJPOPも聴いていたから安心してほしい。米倉利紀とかね)

 

そうか自己愛。

 

思えばかつての自分は自己愛に溢れていた。

そしてそれは様々な行動の原動力だったように思う。

→自転車で夜中に汗を流す俺カッコイイ…
→普段ぼーっとしてる俺なのにカラオケになるとまあ声を枯らして歌っちゃうのカッコイイ…

→面白いTweetや記事を書きたいからこそ日々を充実させようとする俺ってば意識高い

 

 

なぜ自己愛がなくなったのか。

 

実はここ四年でかなり太った。

結婚をしたりタバコをやめたり奥さんのご飯が美味しかったり色々な条件が重なり20キロも体重が増えたのだ。これを起点に考えていくと色々と合点がいく。

 

太ると…

→太った俺なんて自転車乗ってもカッコ悪い…

→太った俺なんて歌ってもカッコ悪い…

→太った俺なんて文字書いてもデブ…

 

何か新しいことを始めたり、面白いことを考えたりすることをしなくなったのはデブから始まるこの負の連鎖のせいだ。何をしたってデブはデブ。その結果積極的な行動が減り受動的なメディアをばかりを嗜むようになったのだと思う。

 

太った今の自分を愛せなくなっていたのだと気付いた時、長年わからなかった疑問の答えとその解決策が明確になった。

 

痩せよう。

怠惰な四年間への復讐を果たす。

一月七日という日を単なる七草粥の日ではなくするのだ。

僕は決して脂肪に埋もれて死にはしない!

僕は決して戦わずして太りはしない!

今日こそが僕にとってのサラダ記念日となるのだ!!

インデペンデンスデイの演説風にしてもかっこよくならなかったョ…)

 

そういうわけでともかくやせようと思う。

そしてもう1つ、ソシャゲをやめる。

 

パズドラ、黒猫、FFグラマス、FFメビウス、オセロニア、サモナーズウォー、タガタメ…数えたらきりがなく常にチェーンで何かしらのソシャゲに打ち込んでいた。どれも面白いけど、そればかりをしていては、道端に咲いてる美しい花に気付かない人間になってしまう…それは勿体無いことだ。そうだろう?(デブ)

生活を変える為にソシャゲをやめよう。

 

この2つで僕はきっと自己愛を取り戻せる。

その日まで戦い抜こう。

 

(手始めに、妻に2人でマウンテンバイクを始めようと誘ってみようか。)

 

グリーンスムージーサラダチキンを流し込みながら意識の高い僕はそう思った。

腕時計を気付かれたい願望とその儚さ

自分の時計が良いものかどうかなんて誰かに自慢して知らせるものではない。
自分がそれを知っていれば良い。黙っていても分かる人には分かるんだ。

私が一大決心してザ・シチズンを購入してから既に3回目の冬が終わろうとしている。
その間で私が身に付けるザ・シチズンについて誰かに気付かれた事はあっただろうか。

全然なかった。一度もなかった。
唯一それに近い経験としては、2chの時計スレにアップしてドヤーってした時に
「何その湿布みたいな文字盤」
「波板みたいなんだけど」
などと生暖かくあしらわれたことがあった程度だった。(エコドライブの文字盤には細かい溝がある)
しかし何も無さ過ぎてそれすらもはや美しい思い出である。


ザ・シチズン エコ・ドライブモデル AQ1020-51A


ザ・シチズンは良い時計だ。値段だって少々はる。
だが圧倒的に知名度とインパクトとそれっぽさが足りない。
天下のGrand Seikoはどうか。こちらの方は文字盤を見ただけですぐわかる。
Grand SeikoともGSとも書いてある。
ザ・シチズンはただ、"CITIZEN"とだけ。
カタログや店頭で見たことある人でもないかぎり、それがフラッグシップだなんてわかるはずもない。

だけど、それがまた良いのだと思っている。

ここに葛藤があるのだ。
気付かれたいけど自慢したくない。でも目立ちたくない。

あまりにも気付かれないので私はもう現実の世界を諦めたよ…。
妄想の世界で、他の人に見つかってしまう瞬間を夢見てしまうのだ。




タイトル:ザシチ見つかっちゃった

(登場人物)
 財津七郎…ザ・シチズンを持つ会社員
 吉田課長…財津の上司
 加藤…財津の同僚
 

オフィスに定時を告げるチャイムが鳴り響いた。
課長の吉田は帰る下準備とばかりにPCで開いていたファイルを端から終了して行く。

「課長〜。
私今度腕時計買おうと思うんですけど、課長って格好良い時計してるし詳しそうじゃないですか?
良いの教えてくださいよ〜。」

人懐こい声で話しかけるのは課の紅一点の加藤だ。
話しかけられた吉田は自分の腕時計ロレックスコスモグラフデイトナをちらと見てから加藤に答える。

「そんな詳しい訳じゃないけどな。
しかし時計って言ってもいろいろあるぞ〜。
SEIKOのルキアってだけでもたくさん種類があるから一度ショップを覗いてみたら?」

ルキアね…うん名前が良いかもなどと言いながら加藤は今聞いたキーワードを検索すべくスマホをいじり始めた。

その時、吉田の二つ隣の席の財津が席を立った。
定時後の一服でもするのだろう。
その背中が見えなくなった頃に加藤は言った。

「財津さんて、時計とか全然興味無さそうですよね。
なんかありきたりなデザインの時計してるし。」

加藤は財津の席に外して置かれたCITIZENとだけ書かれた腕時計を眺めている。

「そう見えるか?」

吉田は微笑みながら加藤に教える。

「財津のその時計はCITIZENのハイエンドモデルだぞ」

うそ…加藤は目をまあるく見開き呟いた。

「年差って言葉を聞いたことあるか?
だいたい一般的なクォーツ時計ってのは月差±20秒程度なんだ。
でもな、そいつのそれは年で最大5秒しかずれない。」

「ええ!?こ、このいかにもフツーな腕時計が!?」

「普通か…それは飽きの来ない普遍的なデザインと言い換えることも出来るだろう。
"最高の普通"というコンセプトを掲げて開発されたSEIKOのGrand Seikoのクォーツモデルも年差時計だがそれでも年差は±10秒だそうだ。
後発とは言えそのThe CITIZENはそれを上回る。
目立たないけど堅実に仕事をこなす…
…実にあいつらしい時計だと俺は思うよ。」

「へ〜すごいんだ…。
あ、でもでもThe CITIZENがすごいのはなんとなくわかったんですけど、財津さんて仕事出来るんですか?」

「あいつは目立ちたがらな屋さんだからな〜。
うちの会社に伝わる伝説は聞いたことあるか?」

「私が知ってるのは、会社の創設時に受注した大型案件が大炎上していたのを1人で解決した人がいたってのですね…。
確か通称、スーパーエンジニアZ…


え!?まさかそのZって!?」

「ふふふ、どうだろうな?」

「ちょっと課長〜!」


一服から戻った財津は帰りがけの加藤とすれ違う。

「おつかれす…」

「お、お先に失礼しますっ!」

なぜかいつもより丁寧でぎこちない挨拶を返された財津は首をかしげながら席に戻って行った。





ザシチって本当にいいもんですね!(うっとり)

腕時計を選ぶ(下)

腕時計を選ぶ(上) - 大饅頭選手権の中で


タカシマヤの時計サロンで待ち合わせをしている時にふと、SEIKOのコーナーに足を向けた。
ガラスケースの中を眺める。
どれもまあ見た事あるチェック済みのやつだよね…と念のため確認するように次から次に目を這わせて行くと、その中の一本に目が止まった。その見慣れない腕時計はクラシカルなデザインで不思議な光り方をしていた。

[セイコー]SEIKO 腕時計 PRESAGE プレサージュ 琺瑯ダイヤル メカニカル 自動巻 (手巻つき) カーブサファイアガラス 日常生活用強化防水 (10気圧) SARW011 メンズ

セイコー プレサージュプレステージモデル。

立ったり屈んだりしながらじーっとその時計を見ていたら担当のお姉さまがケースから出して説明してくれた。
・文字盤がお鍋とかに使っているほうろうなんですよ
・たった一人の職人さんが1点1点うわぐすりを塗って作ります
・ちょうど入ってきたばっかりで、普通は注文しても2,3ヶ月待ちですね
・人気モデルで中々お店に入ってこないんですよ

調べてみるとセイコーが1913年に生み出した国産で最初の腕時計「ローレル」にも"ほうろう"の素材が使用され、100年経っても色褪せしていないとのこと。

ふむ。
僕が時計や少し高い買い物をする時には、その商品の品質や機能の他にその会社の歴史とかシリーズのコンセプトや商品の背景も決め手になったりするんだけどその点でもグッと来た。


あっと言う間に心は決まった。


心は決まったのだが、一生に一度の品。
他のお店で他の時計と出会って心変わりするような事がないかを確認する必要がある。
(迷える男女関係のようだ…)
その日は取り置きしてもらってタカシマヤを後にし、翌日他に行く予定だった百貨店や質屋を巡った。

何店舗を回ってもいくつの腕時計を見ても、プレサージュ以上にグッと来る時計には出会えなかった。
それどころか、彼女が行く先々であのプレサージュがあるかどうか店員さんに尋ねても、確かにどこにも置いておらず、あのモデルが本当に人気でタカシマヤでの出会いは特別なめぐり合わせによるものであったのだと一層プレサージュを求める思いが深まったのだった。


そして僕達はまたタカシマヤにやって来た。


取り置きしてもらったプレサージュを見せてもらう。やはり素晴らしい。よし、じゃあこれを買ってもらおうかな、と腹をくくろうとしたところで一つ気になった事があった。
この時計は婚約記念品として恋人から贈ってもらうものだ。そして二週間後には両家の顔合わせがありそこでのお披露目を控えている。


お祝い用の包装をしてもらえるのだろうか。
一緒にお披露目をする予定の指輪は宝飾店の好意で華やかな水引を装った桐の箱に飾られる。
もう一方の時計もそれと同じとまではいかなくてもそれなりに見劣りし過ぎない形で並べたいものである。
応対してくれた店員さんに尋ねた。(彼女が)


「贈答用の包装をしてもらうことはできますか?」

「簡単な熨斗を付けるだけになります」

「そうですか。お金がかかってもいいので水引をつけてもらえませんか?」


すると他の店員さんに聞いたり、電話をかけたりして調べてもらった結果、2500円くらいかかるとのこと。
対応は別のフロアのギフトカウンターで行うらしい…のだが少し歯切れが悪い。
専門外だからかな?と思ってそのギフトカウンターに行ってどんな感じになるか尋ねたが
そちらでもはっきりとしたサンプルやイメージはなく、金額だけ。


ここで僕らは少ししょぼんとした。


これまで見てきた時計サロンではグランドセイコーを始め、タグ・ホイヤーもベルアンドロスもオメガもきちっとした結納返し用の梱包を独自で用意していた。
それと同じものを違う時計で求めるのはちょっと違うのかもしれない。おそらくプレサージュはその用意がないラインナップだったのだろう。だけどそれでも、僕が一生に一度もらい、彼女が一生に一度贈ってくれる時計はもっと尊敬を持って扱われて欲しい。有償であってもいい、その選択肢が欲しい。


とぼとぼとギフトサロンから時計サロンに戻り、もう一度プレサージュを見せてもらう。
美しい。やっぱり欲しいな…。
今度応対してくれたのはおそらくそのコーナーの責任者のような人で、最初の店員さんが水引の事で相談をしていた人だった。念のため、その人に尋ねる。


「これ、水引は付けられないんですよね?」

「このプレサージュの箱は通常水引を用意しているものより大きいので入りませんが…  やってみますよ」

『おお…!』

「(水引を箱にあてがいながら)こんな感じになります」

『いいですね…!』


素晴らしい包装になる。
とてもうれしくて、僕らの気持ちは固まった。彼女は僕に尋ねる。


「じゃあ、もういいかな?」

「うん、これをく…  あ、これでお願いします


彼女は店員さんに言う。


これを下さい。」

「かしこまりました。」


こうして、僕らの腕時計探しは幕を下ろしたのだった。


ふふふ…
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ババーン!!
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ほうろうの穏やかな立体感がおわかりだろうか
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これから先、何本か気に入った時計を手に入れる事があるかもしれないが、この時計は一生で最も大切な時計になる。100年後も大事に使っていたいと思える腕時計を選ぶことが出来た。
ほうろうの文字盤を夜な夜な眺めながら、早く記念品の交換が終わればいいと
今はただそう思っている。
(早く身につけたい)




【エピローグ】
プレサージュを買う前に実は1つ買ってもらったものがある。
予算的に余裕があるからと、彼女の粋なはからいである。
機械式時計と言えば…



ワインディングマシーン!!
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セットすると、こう!
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動かすと、こう!
右回りと左回りを定期的に繰り返し、お好みでバックライトが点きます。
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彼女「両家顔合わせの会食で、テーブルにこれがのっかってクルクル回ってたらアホだよね!」
僕「せやな!」

腕時計を選ぶ(上)

結婚する事になった。
両家の顔合わせをセッティングし、指輪を贈る手筈が整った。
そうするとお相手から指輪のお返しの結婚記念品として時計を買っていただける事になった。

腕時計。

実はここ最近まであまり僕は腕時計に興味を持てないでいた。
だけど社会に出て昼夜問わず働いていくうちに、何となくツールとしての腕時計に相棒のような感情が芽生えて来ていた。

業務の開始を確認し、
会議室でお昼休みの時間を気にして、
帰りの終電を気にする。

目まぐるしい日々を共有してきた数少ない仲間はスーツ、PC、モバイル、文具、そして腕時計だった。

僕にとって腕時計は相棒。
長い時間を肌身離さず身に付ける事になるのだからと、去年一大決心をして高級腕時計を購入した。

それがザ・シチズンだ。

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チタン製で軽く、年差5秒の高精度。常識はずれの10年保証。
なおかつソーラー(エコドライブ)で長年電池交換が不要。
インデックスは多面にカットされていて、キラキラ光って美しい…

そんな完璧な優等生を既に手にしている僕は一体他にどんな時計が欲しいのだろう。
色々と検討してみた。



【検討1:グランドセイコー
調べていく中でこういう記念品の定番として良く目にしたのはグランドセイコー
グランドセイコー GRAND SEIKO 腕時計 メンズ クォーツ SBGX095
セイコーは日本の時計の歴史そのもの…そのフラッグシップのグランドセイコーには僕だって憧れがある。しかしながら"最高の普通"をコンセプトにするグランドセイコーは所持しているザ・シチズンと方向性がかぶるし(こっちが本家だけど)、そもそもザ・シチズンを選んだ時に当然比較検討に挙がり、予算の都合やザシチのコスパの良さから泣く泣く切り捨てた品。
グランドセイコーは当然欲しいのだが、どうしても結婚記念品として選ぶ気分にはなれなかった。



【検討2:カンパノラ】
シチズンの高級時計でありながら、ザ・シチズンと対極をなすのがこのブランド。
開き直ったこのガワ時計にはひと目見た僕を虜にするような美しさがあった。
シチズン カンパノラ 腕時計 コスモサイン【Cosmosign】 CITIZEN CAMAPANOLA CTV57-1231
シチズン カンパノラ 腕時計 エコ ドライブ 【Eco Drive】 CITIZEN CAMAPANOLA 深緋?こきあけ? BU0020-03B
ただのクオーツなのにただならぬ外観。
星座のことなんて普段大して興味もないくせに、その美しさを、宇宙を、腕に身につけてしまいたくなる…
実は前々から憧れていて、いつかは欲しいと思っていた。
そして実際に百貨店や質屋に出向いて、何度か試しに付けさせてもらった。

でもなぜだろう、しっくり来ない。
とても綺麗でよく出来ているのに、なぜか僕の腕に付けると輝きを失う。

信じたくはないが、僕の腕に似合わないようだった。
できる事なら僕がガラスの靴を履きたかった。
僕にはシンデレラの姉の気分がよくわかる。



【検討3:エクシードユーロス】
松坂屋の店頭で見かけて目を奪われたシチズンの電波ソーラー(エコドライブ)。
ヨーロッパのナイト様が付けそうな格好いい時計。
文字盤をよくよく見てみると貝で出来た文字盤に四つ葉のマークが敷き詰められている。
[シチズン]CITIZEN 腕時計 EXCEED EUROS エクシード ユーロス Eco-Drive エコ・ドライブ 電波時計 ペアモデル ES1035-52A レディース
とても格好良いのだが、ちょっと考え過ぎてしまった。
…結婚記念品として新郎風情がちょっと調子に乗っていないか?(中年以上の紳士が似合いそう)
…どんなファッションをすればこの時計に見合うの!?(混乱)




【検討4:ロレックス、ボーム&メルシー、ロンジン、オメガ…etc…etc】
目の保養になった。



【検討5:中古のブライトリング、中古のカルティエ…etc…etc】
コメ兵に行って色々見て回るのはとても楽しかったが、最終的に
「婚約記念品は一生大事にしていく品。中古で手に入れたものは自分の性格からいってそれなりにしか扱わないと思う。やっぱり新品で買うのがいいと思う!」
という結論に達した。



時計選びは混迷を極めていた。

腕時計を選ぶ(下) - 大饅頭選手権の中で

同期からの贈り物

入社したのはそんなに大きくない会社で、同期は8人だけだった。
男6人に女2人。
そのうち、最初から正社員だったのは僕を含めた男4人。
残りのみんなは斡旋会社から試験採用されて来ていた。
半年後、残念ながら全員が本採用とはならず、男2人が去っていったんだけど、僕は特にその2人と仲が良かったので辛かった。
別れ際に同期で集まってお別れを言い合った。
僕は2人に僕が大好きなレトルトカレーを贈った。自分が好きなものを贈るのがいいよね!っていう安易な考えだけどそれなりに喜んでくれたのを覚えている。

先日、同期の女子が結婚した。
結婚祝いを贈ったら、今日お返しの品が郵送されてきた。

カタログギフトか何かかな。きっとそういうものだと思う。
同期だから何かあれば連絡はとるけど、僕は独り東京を離れ名古屋になったし。
そもそも東京にいた時からそんなに親しかった訳じゃない。
それでも、たまに顔を合わせた時、残業遅くまでした時に労を労い合ったりして仲間意識はある。

届いたギフトはちょっと重みがあって、広い。


開けてみる。



レトルトカレーだった。

マイカーを買おうか買うマイカー

若者の興味が自動車から離れて久しいと言う。
いっぱい稼いで、良いマンションを買い、良い自動車に乗る、そんな時代は終わったと言う。
かつての僕もそんな若者であった。とにかく自動車に乗りたいと思わない。
乗りたいと思わないので欲しいと思わない。

なにしろ自動車の解せない点は運転席が真ん中にないところだ。なぜ運転席が片側に寄っている。到底乗り物を運転するのに適した構造になっているとは思えない。理に適っていない。なぜ、一体どうして複数人で乗る事を前提で作られているのだ。俺にはろくに友達もいなけりゃ彼女なんてのもいないってのに!!!!


…と、暗いじめじめとした青春時代をアニメ・ゲームと仲良く過ごして来た僕は自転車に乗った。真剣に乗った。スピードが欲しい時は原付きやバイクにも乗った。ロンリーウルフは孤独を愛していた。


しかしそれも過去の話。
今の僕は孤独でもロンリーウルフでもない。(ハッピーキャットだ!)
私生活でそういった大きな進化を遂げた上に、今年は社会人としても大きな転機があった。
東京から名古屋への転勤である。
名古屋はずるい街だ。ここは街中で遊んでも色々あって楽しい。でも、自動車でちょっと移動するともっと楽しいところがたくさん、本当にたくさんあるのだ。(主にイオンだ!)


ある日彼女は言った。

 「あんたの錆び付いたゴールド免許… あたしがピカピカにしてやんよ!」

たしかそんな事を言っていたと思う。いやもしかしたら言っていなかったかもしれない。言葉なんて瑣末だ。とにかくそれから彼女はぼくをたきつけた。しごき続けた。ケツを叩いたり背中を押したり髪を解いてみたり突然泣き出したりそれはそれは大変だったと思う。ずっと隣で付き合ってくれた。あまりに僕が運転が下手で、どんなに怖い目に合っても、大丈夫大丈夫饅頭はすごいよと震える手で僕の汗ばんだ手を握ってくれた。そうやって、共に死線をかいくぐりながらたくさんの場所に行き、綺麗な景色を見て、気持ちいい温泉に浸かり、美味しい料理を食べた。


最初はレンタカーを借りる時も何かと理由をつけて阻もうとしていた僕だった。
日曜は彼女が寝ている間に僕が乗りたい車を勝手に借りてきた。
そしてその足で、自動車を買いに行った。


これからきっともっと楽しくなる。


…ところで、こうやって書き留めているうちに気付いた事がある。


僕は自動車を運転していたが、どうやら彼女は僕を運転していたようだ。


(ドヤァ!)